英文法に於ける「法(mood)」

    
 いきなりテーマの初めにお断わりしておきますが
 「仮定法(subjunctive)」は現代英語ではほとんど「失われた過去の秘宝(lost treasures of the past)」に近い代物であり、21世紀初頭の日本人の多くが「敬語・謙譲語・丁寧語」を満足に使いこなせないのと同様、現代英語人種の多くは(たとえ生粋のEnglish nativesであっても)「仮定法」を満足に使いこなせない、というか、「仮定法」そのものがもはや現代英語に於いては(例えば”三人称単数現在の動詞の末尾には-sを付ける”みたいな)「従うべき文法ルール」ではなくなりつつある
という歴然たる事実があります。従って
 生粋の英語人種でもない日本人英語学習者が、「仮定法」を「ルールブック通り」に使いこなしてしまうと、逆に、「仮定法」をマトモに使えないEnglish nativesとの間に奇妙な壁を作ってしまう場面が少なくない
というのが現実なのです・・・しかも、英語人種の間でも、否、全く同一人物が異なる場面で繰り出す英語表現の中に於いてさえも、きちんとした「仮定法」の表現を使ったり使わなかったりと、何の統一性もない”全くの無秩序状態(total chaos)”に陥っているのが「現状に於ける英語の仮定法」の実態なのです。
 英語の歴史全体の流れの中で俯瞰的に眺めれば
 英語の文法は常に「複雑⇒単純」の合理的単純化作用の流れにの中にあり、現代英語は「仮定法(subjunctive mood) ⇒ 直説法(indicative mood)」の単純化作用の過渡期にあたるので、「仮定法」本来のルールに厳密に準拠した表現にこだわりすぎる必要はない・・・とはいえ、「どこまでクズしてよいのか?」のルールも未だ定まっていない以上、外国人英語学習者が「仮定法そのものを無視して一切学ばない」という態度では、準拠すべき”法”を持たぬ無法・無秩序・不安定の波間で溺れ死ぬだけなので、「従来存在した仮定法のルール」を熟知した上で、過度にこだわらない態度を貫く、というdouble standard(二重規範)で乗り切るよりほかはない。
ということになるでしょう・・・という次第で、折角学んでも「使わないor使えない」ルールブックの解説、といった趣がある不思議なテーマの「仮定法(subjunctive mood)」、その細目は(まるで古代ラテン語文法のごとく)「なんでこんなにややこしいの?!」と言いたくなるほどに(&現代英語人種が背を向けてしまったのも当然だな、と実感できるくらいに)複雑怪奇ですが、その複雑さの背景にある論理的意味はしっかり把握しておくのが「迷いを断つ」上で大事な心得になるでしょう。
 ”文法的意味”はあってももはや”現実的意義”はない代物が「仮定法」には多いものの、理屈の上での妥当性を知ると知らぬとでは、言語生活の安定度が全く違ってきます。日本人のような外国人が英語を使いこなす上では、拠って立つ”論理的基盤”がないと”精神的安定”が得られないのですから、生粋の英語人種以上に「”失われた過去の秘宝”としての仮定法のルール」を学ぶ必然性は(それなりに)大きいはずです。
 英語には以下の3つの「法(mood)」があります。
●直説法(indicative mood)
 (×)「直”接”法」ではない。直訳調で言えば「描写的ムード」となる。
 ”indicative”とは、状況をありのままに”indicate:描写”するもので、最も一般的な英文描写作法がこの「直説法」です。現代英語では「三単現の”-s / -es”」や「過去形の”-ed”」といった語尾変化(=活用)部分が”直説法”に当たります。
●命令法(imperative mood)
 ”imperative”とは「為されねばならぬ、必須の」の意味です。現代英語では「(主語なしの)動詞原形で始まる命令文」の”動詞原形”の部分が”命令法”に当たります。
●仮定法(subjunctive mood)
 ”subjunctive”の語源は「”主節”(main clause)に対する仮想条件を表わす”従属節”(subordinate clause)内の動詞が取るべき形態」の意味です(昔の日本の英文法業界では”接続法”という呼び名も用いられていました)。現代英語では「Will you ~?(~してくれる?)」の代わりに「Would you ~?(~してくださいますか?)」を用いる場合のような「直説法の時制よりも1段階”過去”へ遡った時制を用いることで、各種のニュアンスを出す表現形態」が”仮定法”に当たる、と思えばよいでしょう。
 ”仮定法”の中でも「仮定法現在」だけは、「時制遡行」の形態が「現在形⇒過去形」ではなく「活用形⇒非活用形(=動詞原形)」という特殊な変化を遂げる形になります(詳しくは後述)。
 喫煙者が目の前の誰かに向かって
<Do> you mind if I <smoke>?
タバコ吸っていい?
と聞くのと
(♪)<Would> you mind if <I smoked>?
喫煙してもよろしいでしょうか?
と聞くのとでは、その”丁寧さ”というか”恐縮のニュアンス”にかなりの差があります。こうした場面では相変わらず「直説法(do・smoke)と仮定法(would・smoked)の違い」を(English nativesなら)誰もが認識していますが
He speaks as if he <knew> everything.
あいつはまるで自分は何でも知っているみたいな口ぶりだ。
という(本来なら”仮定法過去”で表現すべき)言い回しを
(▲)He speaks as if he <knows> everything.
という”直説法現在”で通してしまう場合などは、「”直説法”による”仮定法”領域の侵犯」が着々と進行中(その進行の度合いは各人各様で統一性がない)というのが21世紀初頭に於ける英語の実態です。
 英文法に於ける「法(mood)」とは、「肯定文」・「否定文」・「疑問文」や「現在・過去・未来」といった「意味や時制の違い」を問題にするものではなく、英文描写に伴う話者・筆者の「心的態度」に関する問題です・・・わかり易く言えば、「英語の”法”はムード(気分)であってモード(様式)ではない」ということです。
    

コメント (1件)

  1. 之人冗悟
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