不定詞の形態

    
 「準動詞(VERBALS)」(=「動名詞:GERUND」・「分詞:PARTICIPLE」・「不定詞:INFINITIVE」)は、「動詞」でありながらも「名詞」・「形容詞」・「副詞」としての用法をも併せ持っています・・・中でも「不定詞」は「名詞・形容詞・副詞」全ての用法を持つ最も芸達者な準動詞です。
 それだけに、「不定詞」の用法の多くは「動名詞」・「分詞」と重なります。
 「名詞的用法」の大部分に関しては「不定詞」と「動名詞」の間には互換性があるので、既にもう以下の「動名詞」のテーマで解説済みです。
●「前置詞の目的語」になる動名詞
●「主語」になる動名詞
●「SVC(第二文型)」の「補語(C:complement)=主格補語」になる動名詞
●「SVO(第三文型)」の「目的語(O:object)」に不定詞のみが用いられる場合
●「SV+~ing(動名詞) / SV+to ~(不定詞)」どちらを用いても可の(&意味も変わらない)動詞
●「SV+~ing(動名詞) / SV+to ~(不定詞)」どちらを用いても可だが意味が異なる動詞
●「SVOC(第五文型)」の「目的語(O:object)=目的語」になる動名詞
 「不定詞」の「叙述形容詞的(=補語になる)用法」に関しては、「toなし原形不定詞(~)」と「現在分詞(~ing)」・「過去分詞(~ed)」の働きが重なるので、既に以下の「分詞」のテーマで解説済みです。
●「知覚動詞」を伴うSVOC(第五文型)
●「使役動詞」を伴うSVOC(第五文型)
 「代名詞・接続詞で始まる名詞節」いわゆる「WH節」を「不定詞」で書き換えた名詞句のいわゆる「WH句」については、既に以下の「BEG:Basic English Grammar:英文法基礎編」(の特集記事の奥底)で扱っています。
●(BEG)CHAPTER-8:否定文(negative sentence)⇒SECTION-3:「節(clause)」と「句(phrase)」⇒名詞節(noun clause)・名詞句(noun phrase)⇒「名詞節・句」の具体的形態⇒wh句=疑問詞・接続詞と不定詞(to ~)が結び付く句(・・・cf: wh節=疑問詞・関係詞・接続詞が導く節)&「wh節」は構成しても「wh句」は構成できない「who / why / if」
 「不定詞」がSVC(第二文型)の補語になる「叙述形容詞用法」についても、「BEG:Basic English Grammar:英文法基礎編」の以下の特集テーマで(予習的に)触れています(・・・あくまで”予習”の感じだったので、この後また同じテーマについて詳説して復習することにします)。
●(BEG)CHAPTER-5:目的語(object)⇒SECTION-2:品詞(part of speech)⇒八品詞概説―2)代名詞(pronoun)⇒特殊な「it」⇒非人称形式主語としての「it」&非人称動詞
 ・・・このように、膨大な用法を持つ「不定詞」だけに、その大部分は既にもう他の文法テーマで解説していますから、ここから先に初めて解説される新出事項は(不定詞の全容と引き比べてみれば)さほど多くはありません。
 まず最初は、「不定詞」というものの形態上・意味上の特性について、まとめておさえておきましょう。
 「不定詞(infinitive)」と言う場合には一般に「to+動詞原形」の”to ~”の形態を指しますが、これとは対照的な「toの付かない動詞原形のみ」の形態(~)を「原形不定詞(root infinitive)」と呼びます。
 「原形不定詞」は”bare infinitive(むき出し不定詞)”とも呼ばれ、これと対照した場合の”フツウの”不定詞のことを「to[付き]不定詞(infinitive with ‘to’)」と呼びます。
 「原形不定詞(~)」の用途は非常に限定的で、以下の場合にのみ用いられます。
 以下の場合を除いては、不定詞は「to付き(to ~)」の形で用います。
●「助動詞の直後」には「原形不定詞(~)」を用いる
“He can speak several languages.” ― “Does he speak Japanese?” ― “No, he doesn’t speak any Asian language.”
「彼は数カ国語を話せます」 ― 「日本語は話しますか?」 ― 「いいえ、彼はアジアの言語は話しません」
 「He can speak several languages.」の「平叙文」では、「助動詞”can”」との組み合わせで「原形不定詞”speak”」が用いられている。
 「Does he speak English?」の「疑問文」では、「助動詞”Does”」との組み合わせで「原形不定詞”speak”」が用いられている。
 「He doesn’t speak any Asian language.」の「否定文」では、「助動詞”does not”」との組み合わせで「原形不定詞”speak”」が用いられている。
●「知覚動詞」および「使役動詞」を用いたSVOC(第五文型)の「C(補語)」の動詞型には「~(原形不定詞) / ~ing(現在分詞) / ~ed(過去分詞)」を用いる
“I’ve never seen your son play video games.” ― “We never let him play video games.”
「おたくの息子さんがビデオゲームしてるところを見たことがない」 ― 「うちでは息子にビデオゲームはさせません」
 「(S)I have never (V)seen (O)your son (C)play video games.」の構造中、「(V)seen」が”知覚動詞”なので「(C)play」の動詞型は「原形不定詞」となっている。
 「(S)We never (V)let (O)him (C)play video games.」の構造中、「(V)let」が”使役動詞”なので「(C)play」の動詞型は「原形不定詞」となっている。
●「一部の定型表現」の中では「原形不定詞(~)」を用いる
I cannot but marvel that he does nothing but study.
彼は勉強以外何もしないので、私としては驚くばかりだ。
 「cannot but ~(原形不定詞)」は「~せざるを得ない」の意味の定型句。俗語では「cannot help but ~(原形不定詞)」の形態もあるが、一般的には「cannot help ~ing(動名詞)」の表現を用いる。
 「do nothing but ~(原形不定詞)」は「~以外何もしない」の意味の定型句。
If you want to be happy, all you have to do is [to] help others [to] be happy. You have only to make others miserable [in order] to be miserable yourself.
幸せになりたいなら、やるべきことは一つ ― 他の人が幸せになる手伝いをすればよい。自分自身惨めになりたいなら、他人を惨めにすればよい。
 「all you have to do is ~」は「<all [that] you have to do> is [to] ~:<あなたがやらねばならぬ事の全て>は[to]~することである」からの省略表現。「all」は(後述する)「関係代名詞の先行詞(全ての物事)」となる”代名詞”だが、直後に肝心の関係代名詞(that)が省略されているので、大方の日本人はこれを”形容詞”と錯覚して「(×)all you:あなたがた全員」と捉えてワケのわからぬ誤訳に陥ってしまう。
 動詞”help”を用いたSVOC(第五文型)では、「(S)you (V)help (O)others (C)to be happy」の形で補語(C)には”to不定詞”を用いることもあれば、「(S)you (V)help (O)others (C)be happy」のように補語(C)に”toなし原形不定詞”を用いる”使役動詞っぽい”用法も可能。
 「have only to ~ [in order] to ・・・」はやや複雑な相関表現で、「in order to ・・・:・・・という目的を果たすためには」⇒「have only to ~(=only have to ~):やる必要のあることは~だけ、ただ~しさえすればそれでよい」の意味の流れをまとめると「ただ~するだけで・・・になる」(上例で言えば、「他人を惨めにするだけであなた自身も惨めになる」)ということになる。
 「不定詞」は基本的に「動詞」なので、否定形で用いることができます。
 「否定形不定詞」は「否定詞+不定詞(not to ~)」の形態を取ります。
To be or not to be, that is the question.
このまま存在し続けるか、いっそ存在することをやめてしまうか、ここが思案のしどころだ。
 上は有名なShakespeareの戯曲『Hamlet(ハムレット)』の台詞で、日本では一般に「生きるべきか死ぬべきか、それが問題だ」の翻訳で知られる。
 古式英語の「否定形不定詞」は「to ~ not」で、現代英語でもわざと「古典風」を意識してこの形を用いる場合があります。
(♪)To be or to be not, that is the question.
 否定の意味を強調したい場合は「never to ~」を用います。
“Never to tell lies” is “a mission impossible” for a politician.
「決してウソをつかぬこと」は政治屋稼業には「実現不可能任務」である。
 テレビドラマや映画のシリーズで有名な「a mission impossible:実現不可能なミッション」は、形容詞”impossible”を名詞”mission”の後に置く「ラテン語順」になっている(本来なら「an {impossible} mission」の前置形になっているはずの)表現である点に要注意。
 「不定詞」は(主語を伴わない)「句」の構文なので、主語や時制に応じての「語尾変化(=活用)」はしません・・・つまり「不定詞」には(動詞のように柔軟に)”時制”を表す手段がないのです。
 「不定詞」は自ら”時制”を表すことができないので、その時間的立ち位置は、文意の中核を為す文章(主文=main sentence)の動詞の時制に依存する形(主文と「同時~未来」)になります。
It seems [that] he knows nothing about guns.
彼は銃器については何も知らないようだ。
 上例は「非人称動詞”seem”を用いたIt-that構文」ですが、これを「that節内の主語(=he)」を主語に立てた「不定詞構文」に書き換えると、次のようになります。
(♪)He seems to know nothing about guns.
 上例では、元々の「that節(that he knows nothing about guns:彼は銃のことを何も知らない)」の時制は「現在」、主文である「It seems(どうやら~に見える)」の時制も「現在」、両者の間に時制のズレはないので、「He seems to know」の単純形不定詞でOKです。
 もし「主文の時制」と「不定詞の時間的立ち位置」の間に”(過去への)時制のズレ”があれば、用いるべき不定詞は「to ~」の単純形では済まなくなります。
It seems [that] he has never handled a gun.
彼は、銃器を取り扱った経験がまるでないようだ。
 上例では、「that節(that he has never handled a gun:彼はこれまでに銃器を扱った経験がない)」の時制は「(経験の)現在完了」、主文である「It seems(どうやら~に見える)」の時制は「現在」・・・こうした「”過去”への時制のズレ」がある場合には、「He seems never to handle」の単純形不定詞ではダメで、次のような「完了形不定詞」の形態を取る必要があります。
(♪)He seems never to have handled a gun.
 「主文の動詞の時制」よりも「過去」へとさかのぼる時制のズレを表わす不定詞は、「to have ~ed(過去分詞)」の形態の「完了形不定詞(perfect form of infinitive)」となります。
 「完了形不定詞」の「否定形」は「not to have ~ed」(強調形は”never to have ~ed”)ですが、この形態は非常にまどろっこしいので、現実の英語では”not”(あるいは”never”)は「不定詞」から切り離して「主文の動詞」の側に付けるのが普通です。
(♪)He never seems to have handled a gun.
 もしも上例をあくまでも「完了形の否定形不定詞」で用いるつもりなら、「never to have ~ed」のまどろっこしい形態は避けて、「to have never ~ed」の方へと持ち込むのが(音調的には)より自然です。
(♪)He seems to have never handled a gun.
 上例では”to have handled”が不可分の一体構成(ユニット)なので、その結合を引き裂く形で副詞”never”が真ん中に割り込む「”to have”+never+”handled”」の形態は、文法理論上は好ましくない形態と言えます・・・が、英語人種の実体感覚ではこの「to have never handled」の”副詞割り込み形”の方がむしろ、「never to have handled」の御行儀の良い形よりも好まれるものです。
 不定詞は「to+動詞原形」の2つで1つの不可分構造であり、両者の結合関係は崩すべきではないので、これに「副詞」を添える場合には「不定詞の直前」に置くか「不定詞に直結しない位置」に置くのが望ましく、「to」と「動詞原形」の間に「副詞」が割って入る「分離不定詞(あるいは分割不定詞:split infinitive)」の形態を取るべきではない、と(文法理論上は)言われます・・・が、現実の英語世界では「分離不定詞」を用いる方が望ましいと思える場面が頻繁にあります。
Which do you feel is the better English, “how to speak English better” or “how better to speak English”?
「より良く英語を話す方法」として、「ハウ・トゥ・スピーク・イングリッシュ・ベター」と「ハウ・ベター・トゥ・スピーク・イングリッシュ」、どっちがより良い英語だと感じますか?
 上のような問いに対し「how to speak English betterの方がベター」と答えるような人は、「ベタな英文法に固執するあまりベターイングリッシュから遠ざかる人」と言えるでしょう・・・「how to ~:~の仕方」という(本来なら一体成形の)成文を「how better to ~:~のより良いやり方」や「how best to ~:~する上での最良の方法」へと言い換えるのは、英語人種好みのやり方です。
 ただ、上例は”to speak”の両者を分断する”to better speak”の形態ではないので「分離不定詞」ではありません・・・「分離(or分割)不定詞」とは、次例のようなものを指します。
To better realize what your world is like, you had best study history and a foreign language. You have only to be well acquainted with them to objectively see yourself in the eyes of a third person.
自分の世界をより良く認識するためには、歴史と外国語を学ぶのが一番だ。歴史と外国語に十分通じるだけで、第三者の目で自分自身を客観的に眺めることが可能になる。
 「What is A like?」は「Aってどんな感じ?」の定型句。これを間接疑問文語順にすると「what A is like」となる。この場合の”like”は「好き(動詞)」ではなく「似ている(前置詞)」なので、「Aは何が好きなの?」などと誤訳せぬよう要注意。
 「had best ~(原形不定詞)」は、「had better ~(原形不定詞)」の強調形で、意味はいずれも「~するのが得策」となる・・・比較級の”better:ベター”より最上級の”best:ベスト”の方がレベルが上、と日本人は想像したがるだろうが、実際には「best」も「better」も意味は変わらない・・・何でもかんでも「!サイコー!」・「!サイテー!」と叫びたがる人は洋の東西を問わず大勢いるわけで、そうした連中が「betterよりbestの方がよさげだからhad betterやめてhad bestにしてみた」というだけの「感覚上(だけ)の最上級表現」に過ぎぬ「had best ~」を使うと(非論理的で感情過多の)「バカっちい感じ」を与えてしまいかねぬので、実際には「had better ~」を使う方が(理知的には)ベター、ということは(感情に流れがちな日本人英語学習者の場合は特に)覚えておいた方がよい。
 「have only to ~ [in order] to ・・・」は、やや複雑な相関構文で、「・・・する[という目的の]ためには、~する必要があるだけ」、裏返せば「ただ~しさえすれば、それだけで・・・することができる」の意味になる。
 「be acquainted with A」は「Aと馴染みがある、Aをよく知っている、Aに精通している」の意味の(やや堅めな)定型句。
 「a third person:第三者」の表現は、定冠詞”the”ではなく不定冠詞”a”が付く点に要注意。もしこれを「the third person」にしてしまうと「三番目の人物」の意味になり、「(当事者以外の)客観的立場に身を置く誰か」の意味ではなくなる。
 上の英文に登場する「分離不定詞」を、「文法的に正しい語順」に書き換えると、次のようになります。
●To better realize what your world is like
⇒To realize what your world is like better
または
⇒To realize better what your world is like
 ”better”の位置をどこに移してもかなり「間抜け」な感じになってしまうので、上例に関しては「分離不定詞(to better realize)以外の語順なんてあり得ない」と言ってよいでしょう。
●You have only to
⇒You only have to
 「have only to ~ ([in order] to ・・・):・・・するには~するだけでいい」はこの語順(have only to)でしか用いない定型句なので、これを「only have to ~」の語順に変えるのは全くのナンセンスです・・・が、「have to」の間に「only」が割り込んでいるだけで、「to ~」の不定詞部には何も割り込まない形なので、これを「分離(分割)不定詞」とは呼びません。
●to objectively see yourself
⇒to see yourself objectively
 この表現に関しては敢えて「分離不定詞(to objectively see)」を用いずに「to see yourself objectively」としても(不定詞の記述がさほど長くないおかげで)さほどマヌケな感じにはなりませんが、それでもやはり副詞「objectively:客観的に」の意味を力説強調するためには「to see」の不定詞構造のド真ん中に割り込ませる形で「to OBJECTIVELY see」とする方がパンチが効いた良い表現になります。
    

コメント (1件)

  1. 之人冗悟
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    ♥Got it, guratche!♥・・・発音は「ガリット・グラッツィェ!」意味は「了解(英語)、感謝(イタリア語)」
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