「二重制限」の関係詞節

    
 英語の「関係代名詞節・関係副詞節」に関する実に単純明快なルールとして、次のものがあります。
 同一の「先行詞」に複数の「関係詞節」が掛かる場合は「先行詞に近いものから順番に解釈」する
 ・・・べつに何ということもない当たり前のルールのようですが、実は、日本人英語学習者の場合、このシンプルルールにわざわざ逆らうかのごとく
(×)先行詞から”遠い”関係詞から”近い”関係詞へとさかのぼる「逆順解釈」
を取ってしまう場合が少なくないのです・・・何故そういうアマノジャクなことをするかと言えば
 英語の「<先行詞>+{関係代名詞節}」を日本語に訳す際には「{関係代名詞節}であるところの<先行詞>」という風に”後ろから前へ”の逆順で”訳し上げる”作法を取るのが基本
という日英両言語の対照的性格があるからです。
 何でもかんでも「後ろから前へ」のへそ曲がり解釈作法が致命的になる事例も少なくないので
「同一英文中に関係詞が複数居並ぶ場合の解釈は、先行詞に近い方から順番に!」
という鉄則を(自らの”脳内処理”の段階では確実に)貫く習癖を付けましょう。
 以下、同一先行詞に複数関係詞が掛かる事例を、パターン別に紹介します・・・素直な”正順”とアマノジャクな”逆順”とで、意味がどう変わるか(あるいは変わらないか)確認しながら御覧ください。
先行詞+関係代名詞節A+関係代名詞節B
There is nothing you agree that I disagree.
あなたが賛成するものでわたしが反対するものは何もない。 ⇒ あなたが賛成なら、何であれわたしも賛成する。
遠い方⇒近い方の逆順解釈 ⇒(×)わたしが反対するものであなたが賛成するものは何もない。 ⇒ わたしが反対なら、何であれあなたも反対する。
 ・・・意味がだいぶ違ってしまいました・・・”逆順解釈”はこういう”翻訳事故”につながるケースがあるので、絶対にやめましょう!
 複数の関係代名詞節が単一の先行詞に掛かる場合、[関係詞の省略]が可能なのは「最初の(=先行詞に最も近い)関係詞」のみであり、2つめ以降の関係詞は省略できません。
(×)There is nothing you agree I disagree.
(×)There is nothing that you agree I disagree.
 同一文中で用いられる複数の関係詞には(不可能な場合を除き)同一形態の関係詞は用いないのが(ある程度以上の知的素養を持つ)英語人種の言語学的本能です。
(×)There is nothing that you agree that I disagree.
(×)There is nothing which you agree which I disagree.
 「同一形態関係詞の冗長使用回避」のためにも、「先行詞に最も近い関係詞」は「[省略可能]なら必ず省略する」というのが英語人種の言語学的習癖です。
 同一の先行詞に掛かる関係詞節の数は(現実的に言って)最大でも”2つ”だけ、”3つ以上の多重関係詞修飾”などというものは(複雑怪奇な学術論文でもない限り)まずもって出現しません・・・であれば、「先行詞に最も近い関係詞」を省略してしまえば、残りは”1つ”だけ、「同一関係詞の冗長使用」の危険性も自動的に0%になるので、「先行詞直近の関係詞は是が非でも省略する!」というのが英語人種の言語学的本能になるわけです。
先行詞+関係代名詞節A+関係副詞節B
There are many countries you don’t know where people live much happier than you do.
みなさんが知らない国で、みなさんよりずっと人々が幸せに暮らしている国が、たくさんありますよ。
遠い方⇒近い方の逆順解釈 ⇒みなさんよりずっと人々が幸せに暮らしている国で、みなさんが知らない国が、たくさんありますよ。
 ・・・上の場合は(たまたま)正順でも逆順でも意味はさほど変わりません(が、”逆順は御法度”の鉄則に変わりはありません)。
先行詞+関係副詞節A+関係代名詞節B
“Is there any reason why dinosaurs disappeared that we are not aware of?” ― “Not that I’m aware of. They became extinct because of huge meteor explosion and global weather change thereof, for all we know.”
「恐竜が消えた理由について、我々が知らない理由が、何かありますか?」 ― 「私の知る限りでは、ありません。恐竜たちは、巨大隕石の大爆発とそれによる地球規模の気候変動が原因で絶滅したのです、我々の知る限りではね」
 「Not that X is aware of」は「Xの知る限りでは、そういうことはありません」の意味の定型句。
 「for all we know」は「我々の知る限りでは、(別の可能性については知らないが、我々の認識では)たぶん」の意味の定型句。
 「thereof」=「of that」で「その、それの、それゆえの、それが原因の」を意味する副詞で、契約書等で頻出する極めてお堅い文語。これが「whereof」になると「of which」を意味する関係副詞になる。
遠い方⇒近い方の逆順解釈 ⇒我々が認識していない中で、恐竜が消えた理由が、何かありますか?
 ・・・まぁ、正順・逆順、どっちでも意味は変わりませんね(でもやっぱり”正順”が正解であることに変わりはありません)。
先行詞+形容詞節A+関係代名詞節B
There are few people rich and prosperous but make great efforts.
金持ちで成功している人の中で、大変な努力をしていない人なんてほとんどいない。
 上例の「few people rich and prosperous」は「few people [who are] rich and prosperous」という風に[主格関係代名詞+be動詞]を補って読むと理解し易い。
 上例の【but ~】は「”否定”の意味を含む主格疑似関係代名詞」で、「but make great efforts=who don’t make great efforts」の意味・・・これを単なる「しかし」の接続詞とみなして次のような誤訳に陥らぬよう要注意。
(×)金持ちで成功していて、しかし大変な努力をしている人は、ほとんどいない。
遠い方⇒近い方の逆順解釈 ⇒大変な努力はしていないけれど金持ちで成功している人なんて、ほとんどいない。
 正順も逆順も同じように見えますが、逆順の方は「大した努力もなしに金持ちの成功者になった」という”出世に至るまでの過程”が中心なのに対し、正順の方は「金持ちの成功者が大した努力もしていない」という”出世した後の生活態度”にスポットライトが当たっている感じなので、やはり”順序を間違った訳出はよくない”ということになるでしょう。
先行詞+形容詞節A+関係副詞節B
There are cases rare but possible where chance meetings change the course of people’s lives.
稀ではあるがあり得ないわけではないケースとして、偶然の出会いが人々の人生を変える場合がある。
 上例の「cases rare but possible」は「cases [which are] rare but possible」という風に[主格関係代名詞+be動詞]を補って読むと理解し易い。
遠い方⇒近い方の逆順解釈 ⇒偶然の出会いが人々の人生を変えるケースとして、稀ではあるがあり得ないわけではない場合がある。
 上の逆順訳だと、「偶然の出会いが人々の人生を変えるケース」として「稀ではあるがあり得ないわけではない場合」の他に「ありそうに見えて実はあり得ない場合」とか「頻繁にある場合」とかの”様々なケース”がありそうな感じになってしまいます・・・
 やはり、四の五の言わずに「先行詞に近い方から順繰りに解釈&訳出」というシンプルなルールに従っておいた方が、安全&得策というものです。
    

コメント (1件)

  1. 之人冗悟
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    ●回答者が最初に発した疑問点が解決した場合にはシンプルに
    ♥Got it, guratche!♥・・・発音は「ガリット・グラッツィェ!」意味は「了解(英語)、感謝(イタリア語)」
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