「非人称動詞」に関する注意事項

    
 「非人称動詞」と「不定詞」との組み合わせ構文では、肯定形の「to ~」を伴うのが自然です・・・否定形の「not to ~」や準否定形の「hardly to ~」が「非人称動詞」の直後に来ることは(文法的には可能ですが)ほとんどありません。
It seems [that] he has never handled a gun.
(♪)⇒He seems never to have handled a gun.
彼は、銃器を取り扱った経験がまるでないようだ。
 非人称動詞【seem】・【appear】を、上例のように「not to ~(never to ~)」との組み合わせで用いるのは(文法的には可能ですが)違和感があるので、普通の英語では、否定語”not”を「不定詞(to ~)」から切り離し、「述語動詞(seems)」の方に付けて、次のように表現します。
(♪)⇒He never seems to have handled a gun.
 非人称動詞【prove】・【turn out】(~だとわかる)に関しては、否定形不定詞(not to ~)を従えることは(論理的に言って)不可能です。
It proved that their method was not useful.
彼らの方法は結局役立たずだと判明した。
⇒(×)Their method proved not to be useful.
 「prove(=turn out) to ~」(結局、フタを開けてみたら、~だったと判明した)の表現では、「to ~」の部分は「既成事実」として既に成立している・・・ので、これを”不成立”にしてしまう「not to~」を使うことはできないのです。
 ・・・ということで、上の「not to ~」の欠陥表現は、”not”の否定の意味を”useful:有効”に付けて、これを”useless:無効”にした上で、次のように表現すればよいわけです。
(♪)⇒Their method proved [to be] useless.
 非人称動詞【happen】・【chance】に関しては、「否定形不定詞(not to ~)」との組み合わせ構文も可能です・・・が、やはり少々ぎこちない感じになります。
It [so] happened(=chanced) that I didn’t have any money then.
その時の私はたまたまお金をまるで持っていなかった。
(♪)⇒(△)I happened(=chanced) not to have any money then.
 上のように否定詞”not”を”to不定詞”に付けるよりも、”any money”の方に掛けてこれを”not any money⇒no money”に変えた上で、次のように書き換える方がずっと英語らしい表現になります。
(♪)⇒I happened(=chanced) to have no money then.
 上例の「not to have any money⇒to have no money」のような好都合な逃げ方が出来ない場合には、仕方がないので否定形不定詞「not to ~」を使うしかありません・・・が、その場合でもやはり少しでも”英語らしい”表現を指向するのが英語人種の言語学的生理というものです。
It [so] happened(=chanced) that I didn’t know the answer.
たまたま私はその答えを知らなかった。
(♪)⇒(△)I happened(=chanced) not to know the answer.
 通例、【S+happen+to ~】の不定詞構文で使用可能なのは肯定形の「to ~」だけで、否定形不定詞「not to」を従えることはできないのですが、「<not to know the answer:答えを知らない>という事態が<it so happened>たまたま起こった」という形で、例外的に可能な構文ではあります・・・が、それでもこれは非常に不自然な形です・・・さりとて「I happened to know no answer.」とか「I happened to be ignorant of the answer.」としても更に不自然な形にしかなりません・・・そこで、苦肉の策として生み出されたのが次のような表現です。
(♪)⇒I happened(=chanced) to not know the answer.
 文法的に言えば、上の「to not know」は「分離(or分割)不定詞(split infinitive)」という”破格=コワれた表現”です・・・が、英語人種の言語生理的に言えば「”happen to”であるべきものを”happen not to”にする方がよっぽどコワれてる!」ということになるので、ここはもう堂々とこちらの「”to”と”know”の間に”not”を割り込ませる非文法的split infinitive表現」を使ったほうが、「”happen”と”to”の間に”not”を割り込ませるようなアリエナイ文法的表現」よりもよっぽど”生きた英語”だと言えるでしょう。
 「It+非人称動詞+that A ~」を「A+非人称動詞+to ~」に言い換えた場合、後者の構文に於ける「to ~」の位置付けはどうなるのか・・・これは文法的にはいささか厄介な問題です・・・が、どこかでケリを付けないと先へ進めない感じなので、(いささか文法ヲタク向けの内容になりますが)ここできっちり決着を付けてしまいましょう。
It seems [that] he is very tired.
(♪)⇒He seems [to be] very tired.
どうやら彼はとても疲れているようだ。
 上例のように「that節の動詞」が”be動詞”で、不定詞での言い換え後には[to be]になる場合には、文法解釈に何の問題もありません ― 「be動詞でつないで意味が通じるものは、補語(C:complement)である」という現代英文法の原理に従って、あっさりと「”[to be] very tired”は補語であり、その文型(SPAT5)はSVC(第二文型)である」と即断できるわけです。
 問題は、「that節の動詞」が”do動詞”の場合です。
It seems [that] he knows everything about anything, women [being] excepted(=excluded).
(♪)⇒He seems to know everything about anything, excepting women.
彼はあらゆる物事に関して全てを知っているように思える・・・「女性」だけは例外だが。
 上例の場合、「that節の動詞」は”be動詞”ではなく”do動詞”の【know】・・・不定詞での言い換え後には[to be]ではなく”to know”になります・・・こういう場合、文法解釈に難儀することになります ― 「主語(S)とbe動詞でつないで意味が通じるものは補語(C:complement)」ですが、「主語(S)とdo動詞を介してつながるものは目的語(O:object)」というのが英語の通り相場です・・・となると、上例の「to know」は「目的語(O)」で、文型(SPAT5)的には「SVO」(第三文型)ということになりそうです・・・が、本当にそれで、よいのでしょうか?
 などとまぁヘタなTVのナレーションみたいに見え透いた謎掛けをするのもバカっちいので、あっさり結論を言ってしまいますが
 「非人称動詞【seem・appear・prove・turn out・happen・chance】」を用いた「不定詞構文」では、「非人称動詞」は”助動詞”と解釈し、「不定詞」を”本動詞”と解釈し、”助動詞”を除外した上で、文型(SPAT5)判断を行なえばよい
ということになります。
 上の判定法に従えば
(S)He 【seems】 to (V)know (O)everything about anything, excepting women.
ということで、懸案の例文の文型は「SVO(第三文型)」ということになります。
 ・・・が、「(×)(S)He (V)seems (O)to know…」ではありません・・・あくまで「(○)(S)He (seems to) (V)know (O)everything …」という構造の「SVO」なのです。
 「非人称動詞(seem / appear / prove / turn out / happen / chance)」は、「全文の記述」に対して
●~のように見える(=seem / appear)
●結局のところ~なのであった(=prove / turn out)
●偶然~という状況があった(=happen / chance)
という「付加コメント」を加える”添え物”であり、「本動詞(to ~)」に対する付随的な(auxiliary)成文という意味では「助動詞(auxiliary verb)」に相当する表現であって、全文の文型(SPAT5)判断からは完全に除外されるべきオマケ成文である。
ということが言えるわけです。
 上記の事情は、「非人称動詞」を(今から千年も昔の)日本の古典助動詞に言い換えてみれば(古文をちゃんと学んだ日本人なら)すんなり了解できるはずです。
 英語の「非人称動詞」の【seem】・【appear】(~に見える)は、日本の古典助動詞【めり】(”見”+”在り”=【みあり⇒みぇり⇒めり】=~という見立てが存在する、~に見える)とピッタリ用法が重なります。
He seems very tired.
かのひと、いたういたつきた[ん]めり。
 日本の古典助動詞【めり】は、全ての記述が(”終止形”で)終わったその後に「見+あり(みあり⇒みゃり⇒めり)=そのような見立てがある=どうもそのように見える」として添える「付加コメントの助動詞」です。
 上例で言えば「彼の人、甚う労きたり」(あの人はひどく疲れている)として”終止形(たり)”で記述を終えてしまえばそれは「断定」になります・・・が、最後の最後に助動詞【めり】を添えることで「ひどく疲れている・・・みたいだね」という風に「断定回避のやんわり口調」へと持ち込めるので、何事に付けても「やんわり・はんなり・そこはかとなく」事を運ぶのが”みやび(=雅び・都び)”とされた平安時代の京都の文物には、この「終止形+【めり】」がやたらと幅を利かせていたわけです。
 ちなみに、日本の大方の古典教材では「助動詞【めり】は”連体形”に接続する」と書いてありますが、あれは単純なマチガイで、実際には「”終止形”+【めり】」が正しいのです・・・全文の記述がひとまず終わった後で”付加コメント”として添える助動詞が【めり】なのですから、「連体形」に接続する道理がありません・・・連体形接続に見えるのは「音便」による錯覚です・・・上例の場合、「いたつきたり(=いたつきて、あり)」+「めり」=「いたつきたりめり」が音便形で「いたつきた[ん]めり」に化けたものを、後の世の(=助動詞【めり】が死語と化した後代の)日本人が「(本当は<たり+めり>なのを)<たる+めり>」と錯覚した結果「連体形+めり」などというあり得ないインチキ接続を”考案”してしまっただけ・・・それがいまだに大手をふるって罷り通っているのだから、日本の古文業界の文法意識は(英文法の世界と比べると)かなりゆるいというか何というか・・・詳しく(&正しく)知りたい人は、同じ作者(=之人冗悟:のと・じゃうご)の手になる古文完璧修得WEB講座『扶桑語り(ふさうがたり)』(https://fusaugatari.com)を御覧あれ。
 英語の「非人称動詞」【prove】・【turn out】(結局~なのであった)について言えば、これは日本の古典助動詞の”気付きの【けり】(あぁ、~だったのだなぁ)”とピッタリ用法が重なります。
Their method proved [to be] totally useless.
やつばらがさはふ、すべていたづらなりけり。
 「奴腹が作法、全て徒らなり」で終わればただの”断定”ですが、その記述が終わった後に更に助動詞【けり】を付ければ(”過去”ではなく)”気付き”&”嘆息”の響きが加わって、「なんだ、結局、連中のやり方じゃ全く何の役にも立たない、ってことだったんだなぁ」という【prove】・【turn out】相当の古典表現が出来上がるわけです。
 日本の古典助動詞【めり】(~に見える)や【けり】(~だったんだなぁ)が、「全文の記述」が終わった後で「付加コメント」として添えられる色彩のものだったのと全く同様に、英語の「非人称動詞」の【seem】【appear】・【prove】【turn out】・【happen】【chance】もやはり「全文の記述」からは浮いた”付随的(auxiliary)成文”として(助動詞のように)「文型(SPAT5)判断からは除外して考えるべきオマケ要素」なのです。
 「”仮主語”のit」を立てて用いるが「”真主語”のthat節」を冒頭に出して用いることはできない
という点では、以下のような表現も「非人称動詞の構文」と言えそうです・・・が、実際にはこれらの構文に於ける動詞は”助動詞”および”本動詞”であって、”非人称動詞”とは呼ばれません。
●It may be that…=ひょっとしたら...かもしれない
●It can’t be that…=...のはずがない
●It is not that… [but that ~]=べつに...というわけではない[ただ、~というだけである]
“It may be that he has failed.” ― “It can’t be that he has failed!” ― “It is not that I believe he has failed, but that I believe we should take precautions.”
 これらの構文は、次のような略形で用いる場合が非常に多い。
(♪)“Maybe he has failed.” ― “Can’t be he has failed!” ― “Not that I believe he has failed, but that I believe we should take precautions.”
「ひょっとしたら彼はしくじったのかもしれない」 ― 「あり得ない、彼が失敗なんてするものか!」 ― 「別に、彼が失敗したと信じてるわけじゃないよ。ただ、我々としては用心したほうがいいと思うだけさ」
 上例に於ける”may”・”can”・”is”は、「非人称動詞」とは呼ばれません・・・が、「that節内の主語を冒頭に出した次のような書き換え」が成り立つ点では「非人称構文」と同じです。
(♪)“He may have failed.” ― “He can’t have failed!” ― “I do not believe he has failed, but I do believe we should take precautions.”
 観点を逆転させて言えば
「非人称動詞」の【seem】・【appear】・【prove】・【turn out】・【happen】・【chance】には”助動詞”的な性格がある
とも言えるわけです。
    

コメント (1件)

  1. 之人冗悟
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