「to不定詞」の根源的意味

    
We are going to rescue climbers in distress.
(♪)We are going to the rescue of climbers in distress.
我々は山で遭難した登山者たちの救助に向かうところです。
 日本人向けの英単語集では「distress=悲嘆」だけで片付けられてしまうことが多いが、実際には「自力では抜け出し難い(=他者の救援を要する)苦境」の意味で用いられることが多い。「in distress」は「(船舶などが)自力航行不能状態に陥った、遭難した、難破した」の意味で用いられる。日本人は”救難信号”と言えば”SOS signal”だと思っているが、実際の英語では「distress call」の呼び名が普通。実際に遭難中の航空機パイロットがマイクに向かって叫ぶ台詞は「Mayday, mayday, mayday!」・・・これは「Help me!」を意味するフランス語「M’aider!(英語風に言えばme+aid)」を「五月一日のMay day」に引っ掛けた冗談みたいな組成だが、実際この台詞を叫んでいる最中のパイロットは生きるか死ぬかの極限状況に陥っているので冗談ではない。
 上に並べた2つの英文は、和訳した場合にはほぼ同じ意味になりますが、それぞれの中で用いられている「be going to」の文法的位置付けが異なる点に注目しましょう。
●「be going to the rescue of A」=「<Aの救出>へと向かっているところ」
に於ける”to”は、後続部が「名詞」なので、「”移動の目的地”を表わす前置詞」になっているのに対し
●「be going to rescue A」=「Aを<救出する>予定」
に於ける”to”は、後続部が「動詞原形」なので、「”行動の目的”を表わす(副詞用法の)不定詞」になっています。
 ”to+名詞(または動名詞)”なら「”to”=前置詞」であり、”to+動詞原形”なら「”to”=不定詞」である
逆に言えば
 ”to”が「前置詞」か「不定詞」かを判別するには、直後に「名詞」を置いて意味が通じれば「前置詞としての”to”」、意味が通じなければ「不定詞としての”to”」と判断すればよい
ということになるわけです。
 「be going to ~:~する予定だ」は一般に「”未来”の助動詞【will】の代用表現」とされますが、そもそもは「ある目的地へと向かう」という”物理的移動+到達目的地”の表現だったものが「~するつもりである」という”行動の目的・予定”の表現へと転じたものであり、”行動の到達点”を示すというその原義に於いて「前置詞としての”to”」と「不定詞としての”to”」は同じものである、と言えるわけです。
 「前置詞として名詞を従える”to”」と「不定詞として動詞原形を従える”to”」の違いを確認するために、更に2つの定型句【come to】と【get to】の用法を紹介することにしましょう。
【come to+名詞】および【come to ~(動詞原形)】
We came to the conclusion that something was wrong with the current system.
現状のシステムはどこかおかしい、という結論に我々は到達した。
 「something is wrong with A / there is something wrong with A」は「Aはどこかおかしい」の意味で、この場合の前置詞”with”は「関連(~に関しては、~については)」の意味。
 上例の「come to A」は「Aという到達点に辿り着く」の意味で、この”to”は「名詞を目的語に取る前置詞」です。
 この”物理的移動&到達”の【come to+名詞】から派生して、次例のような”漸進的推移”の【come to+動詞原形】の表現が生じました。
We came to suspect [that] there was something wrong with the current system.
現状のシステムはどこかおかしいのではないか、と我々は次第に疑うようになった。
 【come to ~】は「(時間の経過とともに)だんだん~になってゆく」の意味を表わす定型句で、後述の【get to ~】・【learn to ~】とよく似た(しかし微妙に異なる)”漸進表現”。
【get to+名詞】および【get to ~(動詞原形)】
With the elevator out of order, I got to the top of the building on foot.
エレベーターが故障中だったので、私はビルの最上階まで徒歩で辿り着いた。
 上例の「get to A」は(「come to A」と全く同じく)「Aという到達点に辿り着く」の意味で、この”to”は「名詞を目的語に取る前置詞」です・・・が、この表現が「got to」の形態で用いられた場合の事情は、いささか複雑です。
With the elevator out of order, I[‘ve] got to walk to the top of the building.
エレベーターが故障中なので、ビルのてっぺんまで私は歩いて上らなければならない。
 上例の【got to】は、一見”過去形”に見えるが実際には”現在”の文脈で用いられており、【[have] got to】からの省略形なので実は”過去分詞形”であって”過去形”ではない点に要注意。
 上例の「[have] got to ~(動詞原形)」は「have to ~(動詞原形)」の口語版で、助動詞【must】に相当する「~する必要がある」の定型句です・・・後続成文は「~(動詞原形)」なので、上述の「get to+名詞」の表現との識別はラクそうに思えますが、この「[have] got to ~:~ねばならない」の表現に関する注意事項は次の2点です。
●【have to ~:~ねばならない】相当の【got to ~】は、元々【have got to ~】からの省略形なので、常に”got”(過去形ではなく過去分詞形)で用い、決して(×)【get[s] to ~】の現在形にはしないが、その文脈は常に”現在”であり、”過去”や”未来”では決して用いない。
●【have to ~:~ねばならない】相当の【got to ~】と同様に”現在形”では用いない【get to ~】として、「(紆余曲折を経て)ようやく~になる」の意味を表わす”漸進表現”がある。
At first she hated him, but she got to(=came to) love him.
彼女は最初彼を嫌っていたが、なんだかんだでやがて彼を愛するようになっていった。
 「get=到達する」由来の【get to ~】の”漸進表現”には、「あれこれあったが結局~になる」・「様々な障害を乗り越えてようやく~になる」・「長い時間の果てにやっと~になる」といった”紆余曲折の末の到達”・”いや~、苦労したゎ”・”安堵の溜息ホッ”の響きがあり、類義語【come to ~】の「時間経過と共にごく自然に~になってゆく」という”苦労知らずの自然発露的漸進性”とはややニュアンスが異なります。
 【come to ~】・【get to ~】は基本的に”過去”の脈絡で用いますが、「”未来”の”時・条件”を表わす副詞節の中での”現在形”」で用いる場合はあり得ます・・・しかし、「助動詞willの付いた”未来形”」で用いることが出来るのは【come to ~】だけで、(×)「will get to ~」は用いません。
 【get to ~】の表現には「あれこれの事情を経た上で」の”紆余曲折”の響きがあるので、「will get to ~:あれこれ苦労した末に~になるだろう」というのは論理的に辻褄が合わないのです。
You will come to like him as you get to know him well.
(×)You will get to like him as you come to know him well.
彼がどんな人かよくわかるにつれて、君も次第に彼が好きになることだろう。
 ”漸進的到達”の【get to ~】は”過去形”(・・・時・条件を表わす未来の副詞節内では”現在形”)で用いるのに対し、同じ【got to ~】の形態で”必要性”を表わす(have got to ~の略形の)表現は決して”過去”の文脈では使いません。”過去に於ける必要性”を表わすには【had to ~:~ねばならなかった】を使わねばならないのです。
With the elevator out of order, I had to walk to the top of the building.
エレベーターが故障中だったので、ビルのてっぺんまで私は歩いて上らなければならなかった。
(×)With the elevator out of order, I got to walk to the top of the building.
 ・・・上の英文だと、【got to】は”過去形”ではなく「~ねばならない」という”現在”の文脈と解釈されるので、その和訳は「エレベーターが故障中なので、ビルのてっぺんまで私は歩いて上らなければならない」へと変わってしまう。
 上述の【come to】・【get to】と似た意味を持つ【learn to ~】についてもついでに紹介しておきましょう。
【learn to ~(動詞原形)】
I learned to be patient as I grew up.
私は大人になるにつれて我慢することを覚えた。
 【learn to】の表現では、”to”は常に”不定詞”であり、後続部には常に「動詞原形」が来て、「名詞」が目的語になることはありません。
 この【learn to ~】もまた【come to ~】・【get to ~】と同様の「次第に~になってゆく」の”漸進表現”として用いられる場合があります・・・が、「~することを覚える」という”学習”の意味と捉えることも出来ます・・・両者の境界線の曖昧さを打破するためには、「~することを学習する」の意味で用いる場合には【learn to ~】はやめて【learn how to ~】を用いるのが得策です。
I learned how to play the guitar in my youth.
私は若い頃にギターの弾き方を学んだ。
    

コメント (1件)

  1. 之人冗悟
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