複数の同格的修飾語と単一の被修飾語の間の共通関係:(M1_M2)X

    
 「”肩書き”は複数だけれどもその”肩書きの持ち主”は一人」という(大方の日本人英語学習者が誤解しやすい)共通構文を紹介しましょう。
A famous movie star and renowned director Clint Eastwood made this film.
有名な映画スターであると同時に定評ある映画監督のクリント・イーストウッドがこの映画を作った。
(S)<A (Adj1){{famous} movie star} and (Adj2){renowned director} <Clint Eastwood>> (V)made (O)<{this} film>.
 上の英文の典型的な誤訳例は次の通りです:
(×)<ある有名な映画スター>と<定評ある映画監督のクリント・イーストウッド>(の二人)がこの映画を作った。
・・・どこでどう間違えると上のような誤訳が出来上がるか、わかりますね ― そう、「2つある{肩書き}」に引きずられて、「肩書きの持ち主」まで「2人」だと勘違いしたのがマチガイの元です・・・この間違いに陥らぬための着眼点は:
●冠詞(a / an / the)が1つしかなければ、肩書きが複数あっても、その肩書きの持ち主は一人だけ
ということ ― 「a {famous movie star:有名な映画スター} & {renowned director:著名な映画監督}」であって、「(×)a {famous movie star} and a {renowned director}」ではないのだから、「一人の人物が複数の肩書きを持っている」だけであって「二人の人物がいる」のではない、と解釈するわけです。
 この種のややこしい共通構文が生じるのは「肩書き系形容詞が複数」ある場合なので、その”肩書き”を有する人物の具体名(上例で言えば「Clint Eastwood:クリント・イーストウッド」)が後に必ず控えている表現ということになります。
 次例などは、その「肩書きの主」がなかなか出てこない思わせぶりな感じの英文ですが、最後にはどこかでその正体を明示しないことには文章として片手落ちな代物になってしまいます。
A famous movie star and renowned director made this film. His name is Clint Eastwood.
俳優としても監督としても共に有名なある人物がこの映画を作った。その人物の名は、クリント・イーストウッド。
 上の英文は、2つめの「His name is Clint Eastwood.」抜きでは文意が完結しません ― 最初の英文で「俳優としても監督としても有名な”とある人物”」というふうに”謎掛け”をしておきながら、その「とある人物とは、誰か?」の”解答”を提示しないというのでは、話にならないのです(・・・まぁ、現実世界のコミュニケーションではそういう片手落ちをやらかす不注意な人物が結構いるけれど、そういう悪い見本をマネしてはいけません)。
 「肩書き1+肩書き2+肩書きの持ち主」の同格表現が、「無冠詞(a / an / theが付かない形)」で用いられる場合も(しばしば)あります ― というか、「同格表現は無冠詞が基本」なのです。
This film was made by famous movie star and renowned director Clint Eastwood.
この映画は有名な映画スターにして定評ある映画監督のクリント・イーストウッドによって作られた。
 上の英文では、「(Adj1){famous movie star} and (Adj2){renowned director} (N)<Clint Eastwood>:(1){有名な映画スター}であると同時に(2){定評ある映画監督}でもあるところの<クリント・イーストウッド>」という形で、2つある”名詞成分”がいずれも実質的に「他の<名詞>を飾る”形容詞成文”」として機能しています ― 「名詞」なら冠詞が付きますが、「形容詞」に冠詞は付きません・・・ということで、次のルールが成り立つわけです:
 複数の”肩書き”が無冠詞で並んでいたら、それは同格的修飾語として”他の名詞にかかる形容詞”であり、自らは独立した名詞としての重みを持たぬ成文であると心得よ
 上の英文が、【冠詞】の付き方によって、いかにその意味を変え得るか、以下に示す4つの例文で確認してください:
This film was made by 【a】 famous movie star and renowned director Clint Eastwood.
この映画は、とある有名な映画スターと、定評ある映画監督クリント・イーストウッド(の2名)によって作られた。
 「【a】 famous movie star:とある一人の映画スター」というふうにその”匿名性”が強調されている以上、この”movie star”は、直後にきちんと名指しで登場する「renowned director Clint Eastwood:定評ある映画監督クリント・イーストウッド」と同一人物であるはずがありません。
 「【a】 famous movie star and renowned director Clint Eastwood」の部分だけを取り出せば、一番最初に紹介した英文の冒頭部と同じ形態ですが、あちらでは「文頭にある主語」として用いられていたことを思い出してください ― 「文頭で主語になる名詞なのに”無冠詞”はヘン」だからこその【A】の添付だったのです ― こちらでは「前置詞”by”の目的語」なので、「同格的修飾語は”無冠詞”が自然」というロジックが成り立つわけで、そんな文脈での「【a】 famous movie star and renowned director Clint Eastwood」ならば、「【一人の】有名な映画俳優+定評ある映画監督クリント・イーストウッド」という別人解釈が妥当なわけです。
This film was made by 【the】 famous movie star and renowned director Clint Eastwood.
この映画は、有名な映画スターであると同時に定評ある映画監督でもある、あのクリント・イーストウッドによって作られた。
 上の英文は、「(Adj1){famous movie star} and (Adj2){renowned director} (N)<Clint Eastwood>:(1){有名な映画スター}であると同時に(2){定評ある映画監督}でもあるところの<クリント・イーストウッド>」という(本来なら無冠詞でよい同格表現の)「複数の肩書きを持つ(1名の)人物」に、”あの有名な”の意味で定冠詞【the】を添えたものなので、その”著名性”を強調するために、和訳する際には「例の / かの有名な / 御存知」等の文言を添えてやるとよいでしょう。
This film was made by 【the】 famous movie star and 【the】 renowned director Clint Eastwood.
この映画は、その有名な映画スターと、あの定評ある映画監督クリント・イーストウッド(の2名)によって作られた。
 2つの名詞(movie star / director)にそれぞれ定冠詞【the】が付いているので、その2つの名詞が表わすものは「2名の別人」ということになります。
This film was made by 【a】 famous movie star and 【the】 renowned director Clint Eastwood.
この映画は、ある有名な映画スターと、あの定評ある映画監督クリント・イーストウッド(の2名)によって作られた。
 「【the】 renowned director Clint Eastwood:【あの】定評ある映画監督クリント・イーストウッド」の部分の【the=著名性】に対して、「【a】 famous movie star:【とある一人の】有名な映画スター」 の部分では【a=匿名性】が強調されて、「その”【とある】有名な映画スター”って、誰なんだろう?」という期待感をあおります・・・ので、後続の文章の中で「その有名な映画スターとは、~~である」という”謎解き”が(マトモな話者・筆者であれば)行なわれるものと思ってよいでしょう。
    

コメント (1件)

  1. 之人冗悟
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