「祈願文」に於ける構造的倒置

    
 文の性質上必ず倒置構造を取るものとしては、「疑問文」と全く同じ構造を取る「祈願文(願わくば~たらんことを)」があります。
May you all be happy.
みなさんが幸せでありますように。
 上の例文は、一見すると普通の「疑問文」 ― (auxV)<May> (S)you (all) (V)be (C)happy?:あなたがた全員は幸福に<なりそうでしょうか>? ― に見えますが、それだと何とも意味がヘンです。
 実は、この例文中に於ける助動詞「may」は、「願望(~でありますように)」を表わすものであって、「可能性(ひょっとして~でしょうか?)」を表わすものではないのです。
 「May+主語+動詞原形」の形で「願望」を表わす文章は、「祈願文(optative sentence)」と呼ばれます。
 「祈願文」は、現実の英語の中では、一部の(文語的な)定型句や(下品な)罵倒文の中で用いられる以外、ほとんど出番のない特殊な形態です。
 上で見たとおり、「祈願文」は倒置構造を取るのが約束事なのですが、実際の使用例としては、以下に示すような「倒置構文には見えない祈願文」のほうがむしろ多かったりします。
God bless you.
あなたに神のお恵みがありますように。
または
(クシャミをした人に向かって)お大事に。
 その昔、西欧では、クシャミをした瞬間に人は無防備となるので「魔が差す=よからぬ病気の元が口や鼻から体内に入り込む」と考えられたので、そうならないように「神様のお恵みがありますように!」と声をかけたのです・・・今でも英語人種は、誰かが「クシュン!」とやれば反射的に「ブレッシュゥ!」と返します。
 上の例文は、一見すると「(S)God (V)bless (O)you:神があなたに祝福を与える」の「平叙文」に思えます。
 しかし、もしこれが「平叙文」ならば、「三人称主語”God”」に合わせて動詞の形態は「bless<es>」になっているはず(もし過去なら「bless<ed>」 / 未来なら「will bless」の形態のはず)ですから、語尾変化もなく助動詞の添付もないこの英文は、「平叙文」であるはずがありません。
 実はこの英文は、「May+SVの”祈願文”」から「文頭の助動詞May」が省略されたもので、元の形は次の通りです。
May God bless you.
 「願望の助動詞May」で始まるのが「祈願文」の定型ですが、その「May」が省略されたもの、と考えれば「God bless you」の動詞「bless」が「原形」のままで「(三単現の”s”付きの)bless<es>」にならない理由がわかるはずです。
 さらにまた「主語の”God”」まで省いて「Bless you.」にして使う人も大勢います。
 西欧人の間では「神(God)の名をみだりに口にするべからず!」の禁戒意識が根強いので、「May God bless you.」⇒「God bless you.」の「願望助動詞”May”の省略」のみでは留まらず、「畏れ多い”God”の名も省略」した上で「Bless you.」となる、というわけです。
 上例のような「祈願文からの”May”省略現象」とよく似た(しかし似て非なる)倒置構文があります・・・かなり時代がかった表現で、英文法の”研究者”でもない普通の英語学習者の学習対象からは完全に外れる代物ですが、後述する「譲歩構文に於ける倒置」の予備知識として重要なものなので、以下に(二段構えで)示しておきます。
 このように、文法的には何かとややこしい「祈願文」ですが、現実の英語の中での使用例は「決まり文句」としての定型的運用のみに限定されていますので、英語学習者としてはその「よく使われる(祈願文の)定型句」を丸暗記して使えばよいだけ・・・以下にその一例をあげておきますが、「祈願(~でありますように!)」はともかく「罵倒(~しやがれってんだ!)」の意味になる表現は、あまり自ら口にしないほうが身のためです。
[God] Damn you!
このクソッタレ!(てめぇなんざ神に呪われちまえ!)
God(=Heaven) forbid! / God(=Heaven) forbid that ~.
そんなこと、あってたまるもんか! / おいおい、~だなんて、かんべんしてくれよ! (どうか神様がこのような事態の発生を禁じてくださいますように!)
God forgive us!
おぉ、神よ、許し給え!
[God] save us!
うわぁ、なんてこった!(まいったねこりゃどうも、神様、助けてよ!)
 上に列挙した「”God”主語」の祈願文は、冒頭に「祈願の助動詞”May”」を補って考えればその意味がわかるでしょう。
 次の例では、冒頭の助動詞”May”を省略することはできません ― 主語が「祈願文定番の”God:神”」ではなく、「映画Star Warsのファンにしか通じない”the Force:フォース”」というマイナーな代物なので、「自明ゆえの[May]省略」という流れには乗せられないのです。
May the Force be with you.
フォースの共にあらんことを!
(×)5/4(May the Fourth) be with you.(五月四日はあなたと一緒)
 ・・・ベタなダジャレで、五月四日はみんなで祝う「国際スター・ウォーズ・デイ」だったりする・・・
 自分が相当ディープなスターウォーズマニアであることを強引に主張する手段として、「Force be with you.」という「本来なら許されないMay省略形」を(これって定番表現だよねっ!の意思表示として)わざわざ使う人もいる、という事実も、覚えておくとよいでしょう・・・が、一般的にはやはり(省略なしの)「May the force be with you.」が妥当です。
May there be no war!
どうか戦争が起こりませんように!
 上の英文には”God(神)”も”the force(フォース)”も出てきませんが、「世界に戦争が存在しない状態・・・でありますように」と人が願う際、その祈りの視線の先にいるものはやはり”God(神様)” ― 「祈願文」は常に「神頼み」と覚えておきましょう。
    

コメント (1件)

  1. 之人冗悟
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